顧問心理士というキャリア

顧問とは

顧問心理士、耳慣れない響きですね。

通常、企業の顧問として迎えられるという場合には、その企業が求めている特定のスキルやキャリアがあり、またそれらを活かして企業活動の発展のお手伝いをする、という形がをとられることが殆どなのです。

産業領域における従来の心理士の活動

心理の専門家が企業との契約で企業活動のお手伝いをするというなると、多くの方はEAP(Employee Assistance Program;:従業員支援プログラム)を思い浮かべられるのではないでしょうか。実際に、一定規模の企業はEAPの契約を外部心理専門支援機関・企業などと結んで職場のメンタルへルス計画を策定し、実行しているのです。

少し産業領域に少しでも詳しい方の場合には、顧問心理士と企業内心理士(企業でフルタイムの雇用をされている心理士)のことと何が違うのかな、産業医もいるからピンとこないなどと考えられるかもしれません。2015年から施行された改正労働安全衛生法によるストレスチェック制度の後のフォローをすることと、何が違うのかな、と考えられる方もおられることでしょう。

心理士の社会における状況

では、ここで少し近年の心理の専門家を取り巻く状況を簡単に振り返っておきましょう。心理士は医師とは違い、平成31年に初めて国家資格である公認心理師の第1号が誕生しており、それまでは臨床心理士の資格保持者が臨床領域を中心にしながらも、教育・司法・産業といった領域でも広く活動をしていました。そうはいっても、心理カウンセリングの領域では他の資格も百花繚乱の様相で、産業領域では、産業カウンセラーや心理相談員といった資格で活動を続けてきた人方もおられることでしょうし、民間の相談室となれば資格などなくても心理カウンセラーと名乗って自分で開業してしまう、という人方もおられたのです。

ただ、公認心理師ができた現在も、公認心理師が業務独占(その専門業務を行うことができるえるのは当該資格保持・登録者に限られるということ)ではなく、名称独占(公認心理師という名称はその有資格・登録者でないと公認心理師を名乗ることがはできないということ)であるが故に、特定の業務で公認心理師有資格者に限る、といった限定がされない限りは、状況は大きくは変わらないのです。

このような状況ですが、まじめに職務に取り組んできた心理士たちが長年かかって積み上げてきた信頼はそれなりに高いものとなってきており、社会的にも一定の認知がされて、その専門性が認められてきているのも事実です。

顧問心理士という働き方

さて、ここで顧問心理士の話に戻りましょう。顧問心理士が何をするかというと、その顧問契約をする企業との取り決めによって、かなり幅広いのが実情です。幾つか例を挙げてみましょう。

①企業の人事部のアドバイザー的な存在として:実際の不調者への対応を人事担当者と力を合わせて実施する役割が期待されており、安全衛生委員会のメンバーとして迎えられている場合もあります。積極的に企業運営により関わっている点が、企業内心理士が企業内の保健室などに配置されて不調者支援などを主として活動していることと異なります。

EAP契約内で相談できる内容を含むことも多いのですが、様々な外には出しにくい様々な社内の問題を共有し、その対処に思い悩む職場の中に入って支援を提供できる、ということで、様々な社員・職員の様々な悩みに応える人事担当者にとって心強い存在となります。

②経営者の心理的支援者的な存在として:経営者たちが多くのプレッシャーにさらされながらも、孤独の中で様々な判断を求められているのは改めて指摘するまでもありません。金策、業績、そして人材育成などは、過去も今も変わらぬ深い悩みなのです。そのような悩みを率直に語る、ということは難しく、家族に話すこともできない、昔からの友人で自分と同様の立場で活動している人方、となると、数も少なく深いとこで心が閉ざされている、という方も少なくありません。

宗教や、尊敬する先輩企業家などの存在に助けを求める人も多くおられます。アメリカにおけるデータですがは、経営者の90%の方は悩みで眠れない日を過ごすことがあり、33%の方はプロのコーチを依頼しており、22%の方はセラピストに援助を求めている、という報告もあります(※1)。

③特定のプロジェクトを支援する存在として:心理士が特定の業務に精通している場合など、その業務に関する特定のプロジェクトを動かすに際して、頭も手も動かせるアドバイザー的な存在として求められることがあります。

また、前述のようなプレッシャーなどの影響もあり、家族と率直に関わることが難しく感じる経営者などは、その家族との関係がこじれていたり、家族成員が何らかの形で問題行動を表現していたりすることも多く、心理や医療など様々な支援を継続的に受けられていることもあります。そのような経営者及びその周辺の人方を支える存在として求められることもあります。

または、例えば認知心理学・学習心理学といった専門領域における心理的知見を提供することで、特定のプロジェクトを進めるということもあります。後者は、産学連携などで行われていることもあるでしょう。これは、従来の企業が求めている顧問というスタイルに近いものと考えることもできるでしょう。

何に応えられているのか、それが問われる

企業・団体の顧問としての活動も視野に入れたいという場合にも、上述の①~③により、あなた自身がどのような経験とスキルを持っているのかによるのです。

加えて、顧問としての報酬は求められていることとその関係性により、かなりの幅があると思われます。現実的に考えるために、産業医に対する報酬から考えてみるとよいかもしれません。産業医の場合、月に数万円で月に一度顔を出す程度の形式的な契約から、月に数十万円程の契約で支援を提供する医師もいれば、フルタイムでその会社の専従として様々な管理業務を行ったり、必要によって応じて離職予防などの対策構築なども含めて実施する場合には2000万を超える契約などもあります。ようやく心理職の国家資格が成立するに至ったばかりの日本では、産業医とは同じ評価はすぐには得られないものの、既に個別の努力が認められて活動している方もいおられるのです。この先の広がりもが期待されるところでます。

これからの心理士の活躍の場を広げるために

企業の従業員たちを支援するのか、人事担当者やメンタルへルス推進担当者たちのを支援をするのか、はたまた経営者や特定の役員らとの関係の中で支援を提供するのか、専門的知見を提供することで何らかの事業を進めるのかなど様々ですが、産業領域においても能動的にコミュニケーションのスキルを駆使しながら、心理専門職として支援を行っている人たち方々は少なくないのです。

いずれにせよ、心理士としての経験と専門性を高めながら、自分の今までの経験とスキルを客観的にみて、産業領域におけるキャリア形成を描く人方が増えることも、より心理士の社会的地位を高めていくことに繋がるのではないでしょうか。

玉井仁

玉井仁

玉井心理研究室主宰。臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。 現・東京メンタルへルス(株)・カウンセリングセンター長、東京未来大学非常勤講師。 15,000時間以上の個人臨床、15年以上の集団臨床を行ってきました。企業・講演も100回を超える。 ロンドン大学UCL卒業後、帰国して引きこもり支援施設で勤務、開設に携わる。 公的教育機関にて教育相談員として勤務の後、CIAP嗜癖問題研究所付属相談室相談員、IFF(家族機能研究所)室長を務めたのち現職。都内精神科クリニックにおいても長く認知行動療法を中心とした集団療法を実践。

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